うつ病における誘引について

うつ病における誘引について

いつのまにか晩秋となっていて、いろいろな木々が紅葉してますね。当院の目の前のサクラテラスの桜の葉も綺麗です。

東京では、あまり桜の紅葉が珍重されることはないですが、関西では、桜の紅葉も愛でられるようですね。
実際、以前、この季節に京都に行ったことがあるのですが、鴨川沿いの桜並木の紅葉が見事でした。

さて、前回はギルバート・オサリバンの話を書きましたが、今頃の季節には、ジャズヴォーカルなども良いですよね。私は(あまりメジャーではないですが)ジェリー・サザンという歌手が好きです。特に彼女の歌う「YOU BETTER GO NOW」という歌が好きで、秋の夜長などには聞きたくなります。

なんと言っても「「YOU BETTER GO NOW」ですからねー。タイトルからして、切ない女性の気持ちが伝わってきてジーンと来ますよね…⁈
ラブソングでは定番の、恋の終わりを歌った曲なわけですね。ところで失恋のあとって、誰でもうつっぽい気分になりますが、はたして、うつ病になるでしょうか…?

答えを先に言うと、失恋が、うつ病の誘引になった、という例は私はあまり聞いたことがありません。これまで何度か、「適応障害」との比較で書いてきたように、「うつ病」は、はっきりとした誘引がなく始まることが多く、逆に、ある誘引の直接の反応として、うつっぽくなった場合は、うつ病でないことが多いのです。

とはいえ、ここから話が難しくなるのですが、失恋からうつ病となることはあまりなくても、配偶者など身近な方との死別は、しばしば、うつ病の誘引となります。昔はよく、「喪失体験」という言葉が使われ、うつ病になりやすい素質を持った方が、それまで慣れ親しんだ対象(それは配偶者などの人物の場合もあれば、会社や地域などといった環境の場合もあります)から、いきなり引き剥がされた場合に、うつ病が発症しやすいのでは、と論じられました

といった具合に、「ある一つの誘引から引き起こされたように見える」ということだけから、「うつ病」か、そうでないかは厳密には決められません。結局のところは、正確な診断は、うつ状態になられた方の症状の詳細な聴取と、その重篤度の判定、からなされるべきなのだと思います。
実際、他の医療機関で、「うつ病でなくて適応障害」と言われてきた方が当院にいらして、きちんとした「うつ病」としての治療を行ったところ、とても良くなった例もあります。

これまで、私自身もこのブログなどで断定的に書きすぎてきたきらいがあるのですが、「うつ病」か、そうでないかは、「明確な誘引があったかどうか」だけでは決められません。うつ状態になられた場合は、症状やその重さを、詳細に(できればベテランの)精神科医にお話しになり、きちんとした正確な診断をつけてもらうべきだと思います