右脳と精神療法③-飯田橋メンタルクリニックブログ

右脳と精神療法③

先日、私が習っている油絵の教室の発表会が終わりました。



私の描く油絵のほとんどは、遠近法などは全く無視していますし、荒唐無稽の構図ですし(例えば、花が空を飛んでいたり…)、



よく「なんでこんな構図が頭に浮かぶの?」と言われます。その種明かしをしますと、実はあまり(意図的には)考えていないというのが正直なところなんですよね…。
例えば次の写真の絵、これは最終的には、「船に乗った女性が船に薔薇を積んで、対岸の街に春が来たことを伝えに行く(なんのこっちゃですよねー⁉︎)という絵になったのですが、最初はそんな絵にするつもりは全くありませんでした。



実際のところは昔描いた気に入らない絵に、何も考えずに絵の具を塗りつけ、その偶然できた形や、残された凸凹(油絵は、絵の具を盛り上げるので、凸凹が残るのです)に喚起されて沸き起こったイメージ(ここは池みたいとか、薔薇の輪郭の凸凹が、まるで宙に浮かんだ花みたい…といったイメージです)に従って描き進めていきます。



すると、だんだん出来上がっていくにつれて、絵の中のストーリーも思い浮かんで(ま、単なるこじつけのストーリーなのですが)、めでたく完成ということになったというわけです。


この過程をあえて言葉にすると、偶然にできた形から喚起されるイメージを大切にして、なるべく作為的でなく直感的に作品を制作していったということになります。


私のような下手くそな絵画ファンにとって引用するのもはばかれますが、シュールレアリズムの巨匠のエルンストという画家は、同じように画家自身がコントロールできない、偶然にできた形を利用して、様々な傑作を生み出しました。



我田引水になりますが、多分、エルンストは、左脳的に「こうすれば受けるのでは?」と分析的に考えたり明白な意図を持って描いた作品はどうもつまらなくなると感じ、偶然生まれた形から(おそらく右脳的な働きで)生み出されるイメージを膨らませて作品にしあげていったのだと思います。
つまり、偶然に生まれた形を手がかりにして、右脳と左脳とがうまくタッグを組んで、クリエイティブな作品を生み出したということですね。
私も、作品の出来栄えはさておき、この「右脳と左脳がうまくタッグを組んで」いる時に、一番絵を描く喜びを感じます。


よく「自分は絵を描くのは苦手で」とか、「自由に描けと言われると何を描いていいかわからない」とおっしゃる方がいます。そういう方は、絵に対してまるで音楽のように「正解」というものがはっきりあって、その正解に向かって、左脳的に分析的かつ論理的に、上手に仕上げなければならないと思っておられるのではないでしょうか?


ここでいったん、そういった考えは脇に置いて、「絵には正解というものはないし、右脳の生み出すイメージに導かれながら、自由に描いていけばいい」と割り切って描かれると、楽しめると思うのですが…。


音楽もやっている(とても下手ですがサックスを習っています)私が感じるので間違いはないと思うのですが、音楽は、あるレベルまでは苦行でしかないし、すごく左脳的な営みだと思います。
でも絵画は、「右脳をうまく使うコツ」を覚えると、その行為の全てが喜びになります。失敗ですら楽しいです。


さて、最後になりますが、「箱庭療法」についても、その目的は「右脳をうまく使えるコツを覚える」ためにやっていただく、と私は考えています。最近の精神療法のトレンドとして、「心的内容より心的行為に着目する」という観点があります。
箱庭療法で言えば、
箱庭の中で表現されたものよりも、箱庭を作る時の、心の使い方が大事であって、それを習得していただくのが箱庭療法の主眼なのだ、という考え方ですね。


これについては、難しいテーマなので、また後日、改めて書かせていただこうと思います。


とにかく、私の申し上げたいことは、絵を描くのは楽しいので皆さま、やってみませんか? ということですね!